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広島地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決

原告 石井昭 ほか一〇名

被告 広島県知事

代理人 見越正秋 中野三男 ほか四名

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年三月九日付け広島県告示第三〇〇号をもって告示した東広島都市計画市街化区域及び市街化調整区域の変更のうち、広島県東広島市志和町全域に関する部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

主文同旨

三  本案についての答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙選定者目録記載の者(以下「原告ら一一名」という。)は、いずれも広島県東広島市志和町の住民であり、同町内に土地、建物を所有している。

2  被告は、昭和五一年一月に決定されていた東広島都市計画について見直しを行い、都市計画区域を東広島市全域に拡大し、これに併せて市街化区域及び市街化調整区域の変更を決定(以下「本件都市計画変更決定」という。)し、平成元年三月九日付け広島県告示第三〇〇号をもって右決定を告示したが、右決定により、原告ら一一名が居住する東広島市志和地区は、都市計画区域に編入され、市街化調整区域とされた。

3  本件都市計画変更決定のうち志和町全域に関する部分は、以下の理由により違法である。

(一) 原告上川昭和及び選定者三宅忠孝は、縦覧に供された被告の本件都市計画変更決定の案について、被告に対し、昭和六三年七月一五日付けで都市計画法(以下「法」という。)一七条二項に基づく意見書を提出した。その内容は、志和町全域を都市計画区域から除外することを求めるものであったが、これを受理した被告は、その要旨を独自に抜粋し、意見書とは異なる内容の意見書の要旨を作成し、法一八条に基づいて広島県都市計画地方審議会に提出した。右意見書の要旨を受理した右審議会は、正当な審理をせず、被告の本件都市計画変更決定の案を承認する議決をした。このように、本件都市計画変更決定のうち志和町全域に関する部分は、原告らが被告に提出した意見書の趣旨を無視してなされたものであるから、その手続に違法がある。

(二) 被告が、本件都市計画変更決定に先立ち昭和六三年七月一四日付けで縦覧に供した計画図面には、都市計画除外区域である志和町の一部を誤って都市計画区域と表示した部分があるから、本件都市計画変更決定の手続には違法がある。

4  よって、原告らは、本件都市計画変更決定のうち志和町全域に関する部分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

行政事件訴訟法三条一項にいう抗告訴訟の対象たる処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解すべきところ、法二一条に基づき行われた本件都市計画変更決定は、当該区域の不特定多数の者に対する一般的抽象的な法状態の変動を生ぜしめるものにすぎず、これによって区域内の個人に対する具体的権利侵害を伴う処分があったものということはできないから、抗告訴訟の対象である処分には当たらないというべきである。

よって、本件訴えは、不適法であるから却下すべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち原告ら一一名が志和町の住民であることは認める。

2  同2は認める。

3  同3のうち(一)の原告上川及び選定者三宅が意見書を提出したこと、その内容が志和町全域を都市計画区域から除外することを求めるものであったこと、被告が右意見書を受理したこと及び右意見書の要旨を作成して広島県都市計画地方審議会に提出したこと、同審議会が右要旨を受理し、本件都市計画変更決定の案を承認する議決をしたことは認め、その余は争う。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1のうち原告ら一一名が志和町の住民であることは当事者間に争いがなく、同人らが同町内に土地、建物を所有していることは、被告において明らかに争わないので自白したものとみなす。

二  同2の事実(本件都市計画変更決定)は当事者間に争いがない。

三  そこで、本件都市計画変更決定が取消訴訟の対象となるか否かについて検討する。

行政事件訴訟法三条一項は、抗告訴訟の一形態として処分の取消しの訴えを規定しているが、右訴えの対象たる処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうのであって、抗告訴訟の対象となる処分といい得るためには、その処分が個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接に何らかの影響を及ぼす性質のものでなければならないと解すべきである。

ところで、本件都市計画変更決定は、都市計画区域を東広島市全域に拡大し、市街化区域及び市街化調整区域を変更するものであって、原告ら一一名の居住する志和地区は、市街化調整区域とされたものであるところ、都市計画区域は、都道府県知事が一体の都市として総合的に整備し、開発し、及び保全する必要がある区域を指定するものであり(法五条)、市街化区域及び市街化調整区域を定める決定(変更を含む。以下同じ。)は、都道府県知事が都市計画決定の一つとして、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を区分して定めるものであり(法七条一項)、市街化区域は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域であり、市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域である(法七条二、三項)。市街化区域及び市街化調整区域を定める決定が告示されてその効力を生ずると、右区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければならず(法二九条)、特に市街化調整区域に係る開発行為及び同区域内における建築物の新築等の建築行為につき大幅な制限が課されることとなる(法三四条、四一条ないし四三条)。

したがって、市街化区域及び市街化調整区域を定める決定は、右の限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。しかしながら、同決定は、法一三条及び同法施行令によって定められる都市計画基準に基づき長期的見通しのもとに高度の行政的技術的裁量によって一般的、抽象的に定められるものであり、開発行為等の規制は、それ自体ではあくまで一般的、抽象的なものであって、国民が現実に開発行為等を行う段階に至って初めて具体化するものであり、同決定に基づく前記のような効果は、あたかも新たに右のような制限を課する法令が制定された場合におけると同様、当該区域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なものであって、かかる効果を生ずるということだけから直ちに右区域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものということはできない。もっとも、右区域内において開発行為等をしようとして前記制限によりそれが妨げられた者が存する場合には、その者は、現実に自己の土地利用上の権利を侵害されたものということができるが、その場合、右の者は、開発行為等の不許可処分や許可を受けずに開発行為等をした場合における都道府県知事等の原状回復命令等(法八一条)の具体的処分をとらえて、その取消しの訴えを提起し、右訴えにおいて市街化区域及び市街化調整区域の決定の違法を主張して右処分の取消しを求めることにより、具体的権利侵害に対する救済を図る途が残されているものと解されるから、前記のように解釈しても格別の不都合は生じないものというべきである。

右のようにみてくると、本件都市計画変更決定は、処分の取消しの訴えの対象となる処分には当たらないものといわざるを得ない。

四  よって、原告らの本件訴えは、いずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高升五十雄 山崎宏 蓮井俊治)

選定者目録<略>

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